口腔粘膜に見慣れない白い病変が認められたら注意が必要です。もしかしたら、白板症(はくばんしょう)と呼ばれる、がんになる手前の病気かもしれません。白板症は、一般の方には馴染みのない病気です。具体的にどのような症状が現れるのか、がんになる手前の症状ならすぐにでも手術した方がいいのかなど、疑問に感じることがたくさんあるかと思います。ここではそんな白板症の原因や治療法、経過観察のポイントなどをわかりやすく解説します。
白板症の特徴と症状
はじめに、白板症という病気の特徴と症状について解説します。
白板症の特徴
白板症とは、口腔粘膜に見られる白い病変のことをいいます。口腔粘膜の上皮が肥厚して、白く盛り上がったように見えます。
白く見えるのは、上皮の細胞数が増加して毛細血管が見えにくくなるためです。口腔粘膜への慢性的な刺激が原因となり、発生した病変が自然に消失することはありません。
がんになる手前の、前がん病変であるケースも珍しくはなく、全体の3〜14.5%は、がん化するともいわれています。口腔潜在的悪性疾患(OPMDs)に分類される病気で、口腔がんへと発展するリスクを伴います。
代表的な症状
白板症では、口腔粘膜に次のような症状が見られます。
- 白い斑点
- しわ状の白色病変
- イボ状の白色病変
- 赤色を伴った白色病変
白色病変は、舌や歯ブラシなどで擦っても取り除くことができません。また、白板症では痛みが生じるのは少ないですが、赤色を伴った白色病変の場合では痛みを感じることもあります。
同じような所見に口内炎がありますが、口内炎は痛みを伴うケースがほとんどです。また、口内炎は病変が限局的に見られるのに対し、白板症は広い範囲に病変が見られます。
白板症で受診すべきタイミングと検査・診断
白板症で医療機関を受診するタイミングと検査方法について解説します。
注意すべき症状と受診すべきタイミング
口腔粘膜の白色病変が広範囲に見られ、長期間、病変が消えない場合は、医療機関を受診すべきタイミングです。このような状態は、口内炎やほかの口腔粘膜疾患とは異なるものと考えられるからです。
白板症と似た症状が見られる病気に口腔カンジダ症がありますが、口腔カンジダ症では白色病変を綿棒などで拭うことができるため、患者さん自身でも鑑別が可能です。
ただし、口腔カンジダ症も治療が必要な病気ですので、白色病変が見られたらすぐに医療機関を受診しましょう。また、明らかに口内炎ではない白色病変に痛みを伴う場合も医療機関を受診すべきタイミングです。
白板症で受診する診療科
白板症は、歯科か口腔外科を受診してください。まずは、かかりつけの歯科医に相談するのもよいでしょう。
白板症は適合の悪い入れ歯や被せ物、ブリッジが原因になるため、これまでの経過がわかっている歯科医院だと診察もスムーズに進みます。
ただし、白板症の精密検査や確定診断には口腔外科の受診が必要です。かかりつけの歯科医にて、白板症の可能性が高いと診断された場合は、紹介状を書いてもらい、病院の口腔外科を受診することになります。家の近くに口腔外科専門の歯科医院があったり、ほかの病気で病院の口腔外科に通っていたりする場合は、直接それらの医療機関を受診してもよいです。
白板症の検査方法
白板症の検査は、視診や触診を行い、病変を取り除けるかどうかも確認します。口腔カンジダ症との鑑別において必要とされています。そのうえで、白板症の可能性が高いと判断した場合は、白色病変の一部を採取して病理検査を行います。
病理検査とは、患者さんの組織を顕微鏡で観察して異常がないかを調べるためのものです。上皮異形成という特殊な病理組織像が認められた場合は、がん化のリスクが高いため、早期に治療を施す必要があります。
白板症は良性なら心配いらない?
病理検査によって白板症と診断された場合、どのような治療を受けることになるのか、不安を感じてしまいます。基本的に白板症が良性である場合とそうではない場合とで、対応が大きく変わります。
白板症が良性と判断される条件
白板症が良性と判断される条件は、上皮異形成という病理組織学的特徴が見られない場合です。上皮異形成とは、悪性腫瘍を生じる可能性が高い上皮変化が、口腔粘膜の重層扁平上皮にみられるもので、3つの重症度に分類されます。
高度の上皮異形成は上皮内癌との鑑別も困難です。病理検査で上皮異形成が認められた場合は、悪性と判断され外科手術による病変の切除が必要となります。
白板症は経過観察が大切
白板症は、通常は良性と診断されますが、時間の経過とともに悪性化してしまうこともあります。そのため、白板症で良性と診断された場合でも定期的に歯科や口腔外科を受診して、病変の経過を見ていくことが大切です。
経過観察のなかで、病変に異常が現れたらすぐにでも治療を行ってもらえるよう、定期的な軽観察を続けましょう。
白板症の主な原因
白板症の明確な原因は、いまだ解明されていません。
原因がわかっている白色病変は、白板症ではないということになります。例えば、カビの一種である真菌への感染で発症する口腔カンジダ症があげられます。このような、鑑別診断を行って、分類不能と判断された病変が白板症となります。
白板症にもいくつか発症と関連が疑われる生活習慣や病気を解説します。
喫煙・飲酒との関連性
タバコの煙には、70種類程度の発がん性物質が含まれているといわれています。ニコチンや一酸化炭素は、口腔粘膜の免疫力を低下させ、栄養状態も悪化させるため、白板症を誘発する原因と考えられています。
アルコールも口腔がんのリスク因子のひとつとなっており、過度な飲酒は白板症の原因になりえます。口腔疾患のみならず、全身の重篤な疾患の主な原因となるため、健康を考えるのであれば控えた方がよいでしょう。
口腔内の刺激や感染
白板症は、口腔粘膜に慢性的な刺激が加わることで、発症のリスクが上昇するとされています。一般的なのは、適合性の悪い入れ歯です。入れ歯は、金属製のクラスプとプラスチック製の義歯床、セラミックやレジンで作られた人工歯からなる装置で複雑な構造をしています。入れ歯や口腔内の環境は、経年的に変化もしていくことから、時間経過とともに適合性が低下して口腔粘膜を刺激することが少なくありません。
適合性が低下した入れ歯では、食事や会話のたびに辺縁が頬の内側の粘膜を刺激してしまいます。入れ歯の設計によっては、舌や歯茎を傷めることもあるでしょう。刺激を受け続けた粘膜は、やがて細胞数が増えて肥厚し白板症へと変化してしまいます。このような慢性的な刺激は、入れ歯以外にも適合の悪い被せ物やブリッジ、矯正装置などでも起こりえます。
白板症は感染症ではないため、特定のウイルスや細菌への感染によって引き起こされることはありません。ただし、ウイルス感染や細菌感染がきっかけで白板症を発症しやすくなるといわれています。
年齢・性別による発症傾向
白板症には、年齢や性別に顕著な発症傾向が見られます。発症しやすいのは40歳以降の男性です。確かな原因はわかっていませんが、白板症の発症には年齢や性別に差があるため、正しく理解しておきましょう。
白板症の治療法・予防方法
白板症と診断された場合の治療法と予防する方法について解説します。白板症は、適切に治療することで完治も望める病気なので、少しでも不安な症状が見られたら、まずはかかりつけ歯科医に診てもらいましょう。
白板症の治療法
白板症の治療法は重症度によって変わります。ここでは明らかな良性で、がん化のリスクが低い軽度と、がん化のリスクが高い重度の症例の2つに分けて解説します。
【軽度】対症療法
軽度の白板症では、病理検査で上皮異形成が認められず、肉眼的な所見も均一型で、しこりや潰瘍を伴っていない状態です。このような状態では、白板症の進行を止めるための対症療法が行われます。まず、喫煙習慣がある人には禁煙が求められます。お酒を飲む習慣もできる限り控えた方がよいです。
厚生労働省は2024年2月に、健康に配慮した飲酒に関するガイドラインを公表しました。このガイドラインでは、1日20g程度の飲酒においても、がんや高血圧、脳出血のリスクが上がることを報告しており、健康のためには、飲酒をしない方がよいと結論づけています。つまり、節度ある適度な飲酒が健康に寄与するという昔からの考えが明確に否定されたのです。当然ですがこれは前がん病変に相当する白板症にも当てはまることから、この病気を患った人は禁酒を検討しましょう。
不良補綴物によって口腔粘膜が傷害されている場合は、調整あるいは新しく作り直しが必要です。マルチブラケットを用いたワイヤー矯正で舌や歯茎、頬粘膜などが傷害され、白板症を発症している場合は、矯正法を変更したり、矯正治療そのものを中断することもあります。その他、栄養状態の不良が原因で白板症を患っていると考えられるケースには、ビタミンAの投与などが行われます。
【重度】原因療法
病理検査で上皮異形成が認められ、不均一型のしこりや潰瘍が認められる白板症は、外科手術で切除します。切除する範囲は、白色病変の大きさや部位などによって変わります。白板症の病変を外科的に切除した後は経過を見ていきます。
白板症の経過観察のポイント
白板症における経過観察では、白色病変の性状がポイントとなります。
白色病変が均一で、しこりや潰瘍が見られない場合は、引き続き経過を見ていくことが一般的です。白色病変が不均一でデコボコがあり、しこりや潰瘍が認められる場合は要注意です。病理検査を行って組織に異常が認められた場合も経過観察から外科治療へと移行しなければなりません。
白板症の日常的なケア方法
白板症の経過観察中は、患部を刺激しないよう注意しましょう。歯磨きをするときは患部に歯ブラシがあまり当たらないように気をつけます。マウスウォッシュでお口をゆすぐ場合は、アルコールが含まれていないタイプの製品を使うようにしてください。食事は、極端に辛いものや熱いもの、冷たいものを避けましょう。
白板症にならないための生活習慣の改善
白板症は、根本的な原因が解明されていない病気なので、完全に予防することはできませんが、生活習慣を改善することで発症リスクを低減することは可能です。
喫煙習慣とお酒を飲む習慣は可能限り控えましょう。食生活においても口腔粘膜を刺激しない食べもの・飲みものを積極的に選ぶようにしてください。栄養バランスがよい食事を心がけることも重要です。その他、全身の免疫力が低下するような生活習慣は、今日からでも改めるようにしましょう。
定期検診の重要性
白板症の経過観察および予防において、歯科医院での定期検診が大切です。良性と診断された白板症でも、数ヵ月後には悪性化する可能性もあるため、歯科検診は定期的に受けるようにしてください。白板症と診断された場合は、歯科医師から定期検診の頻度についても説明があるかと思いますので、指示どおりに通院を続けましょう。
まとめ
今回は、白板症の症状や原因、治療法などについて解説しました。白板症は、口腔粘膜に白色病変が生じる病気で、悪性化すると口腔がんへと発展してしまいます。
白板症は早期発見と経過観察が重要となることから、口腔粘膜に不安な症状が認められたら、まずはかかりつけ歯科医に診てもらいましょう。白板症の診察は、一般の歯科医院でも受けられます。外科手術などの具体的な治療が必要となった場合は、大学病院の口腔外科などを紹介してもらったうえで通院することになります。
参考文献