顎に何らかの症状を持つ方は全人口の7〜8割にものぼるといわれています。特に、お口を大きく開けられない・顎を動かすと痛む・顎を動かすとカクカクと音がするなどの自覚症状で医療機関を受診する方も多く、顎関節症と診断されます。
顎関節症とはどのような病気なのでしょうか。そして顎関節症は女性が発症しやすいといわれていますが、その理由はどこにあるのでしょう。
顎関節症の原因や症状、病気の特徴や治療法と合わせて解説します。
顎関節症が女性に多い理由は?
- 女性が顎関節症になりやすい理由を教えてください。
- 顎関節症は女性が発症しやすい病気だと知られていますが、その原因は明らかになっていません。ただ同じく関節の病気であるリウマチ性関節炎や変形性関節炎も女性に多く見られ、それらの病気の要因として挙げられるのが女性ホルモンのエストロゲンの関わりです。
このことから顎関節症にも女性ホルモンの関与が考えられます。エストロゲンが顎関節にも作用を及ぼすことを示唆する、ラットを使った研究結果も報告されています。また、女性は顎の筋力が弱いことや筋肉の血液循環が悪くなりがちなことも理由の1つかもしれません。
- 顎関節症は若い女性にも多いと聞いたのですが…
- 顎関節症の患者層にはピークが2つあるといわれ、1つは15〜25歳、もう1つは45〜55歳の年齢層です。前者は思春期、後者は閉経期にあたっており、この現象には女性ホルモンが関わっているのではと考えられています。
顎関節症の原因・症状
- 顎関節症とはどのような病気ですか?
- 顎関節症は、顎の関節を構成する骨・筋肉・靭帯などのバランスが崩れることで顎関節や咀嚼筋に異常が起こる病気です。多くは顎が痛む・お口が開けにくい・顎関節を動かすと音がするなどの症状で自覚されます。顎関節症自体はそれ程珍しい病気ではなく、怖い病気ともいえません。
場合によっては自然におさまることもありますが、日常生活に支障があるようであれば医院での治療が必要です。顎関節症は、顎関節部やその筋肉や靭帯の痛み・開口障害・顎関節雑音の3つの症状のうち少なくとも1つ以上があるものを指し、噛み合わせのズレや首や肩のコリなどのみが症状として出る場合は顎関節症とはみなされません。
また、腫瘍・顎関節リウマチ・顎関節強直症などの顎関節症とは区別されます。
- 顎関節症の原因を教えてください。
- 顎関節症の原因はまだ特定されておらず、さまざまな要因が重なって発症しているとみられている病気です。日常生活で無意識に行う習慣が原因の多くがそれにあたるともいわれ、精神的なストレスによる噛み締めや食いしばり・頬杖・偏った側で噛むくせなどが要因とされています。ほかにも噛み合わせや顎の発達状態も原因の1つではといわれています。
- どのような症状が出ますか?
- 症状は大きく分けて3つ挙げられ、痛み・開口障害・関節雑音です。痛みには顎関節痛と咀嚼筋痛があり、顎関節痛は顎関節まわりの組織に炎症が生じて起きる痛みです。一方咀嚼筋痛は筋肉の痛みで、鈍い疼くような痛みですが、トリガーポイントと呼ばれる部位を圧迫すると鋭い痛みを感じる場合もあります。
開口障害とはお口が大きく開きにくくなる症状で、関節雑音は咀嚼や大きくお口をあけるときにカックンやガリガリといった関節音がする症状です。その他の関節雑音として、シャリシャリやグニュなどの軋轢音がする場合もあります。
さらに頭痛・耳の痛みや耳鳴り・めまい・舌の痛みなどを感じることがありますが、これらの症状については顎関節症によって起こっているのかそれともほかの病気に原因があるのかを慎重に判断しなければなりません。
- 放置していると悪化しますか?
- 顎関節症では、多少の症状ならば治療をしなくても自然に改善し治まる場合も少なくないものです。しかし開口障害では放置により逆に次第に症状が強まり、お口がより開けにくくなる可能性もあります。
顎関節症の検査・治療法
- 顎関節症かどうか自分で確認する方法はありますか?
- 以下のような症状が複数見られる方は顎関節症の可能性があります。
- 食べ物を噛むと顎がだるい
- 顎を動かすと痛みがある
- 大きなあくびやりんごの丸かじりができない
- 耳の前やこめかみが痛むことがある
- 顎が動かなくなるときがある
- お口の開閉時に耳のあたりで音がする
- 噛み合わせが変わったように感じる
- 頭痛や肩こりがある
このような症状が複数あり、日常生活に支障を感じる場合は、医療機関の受診をおすすめします。
- 顎関節症が疑われる場合どのような検査を行いますか?
- 顎関節症の診断は、いくつかの審査結果からの総合的な判断です。まず開口量を測定し、自力での最大開口量と補助を受けたときの最大開口量に差があるかを確認します。正常な状態ではこの二つの開口量に差はありませんが、5mm以上の差がある場合には筋肉の障害の可能性があり、また40mm以上開口できない場合は開口障害が疑われます。
さらに下顎頭を圧迫して痛みの有無を確認しますが、痛みがある場合は関節包や滑膜が炎症を起こしているでしょう。下顎マニピュレーション下顎頭滑走診査では医師などが患者さんの下顎を持ち、関節部を触りながら下顎を片方ずつ前後方に引っ張って、下顎頭の動きと痛みの有無を調べます。
この診査では下顎頭の滑走障害や関節の痛みの有無・雑音がするかどうかなどが確かめられます。咬筋圧痛診査は頬に指を置き患者さんに噛み締めてもらう診査で、筋肉の左右差や痛みの有無の確認です。
さらに必要に応じてレントゲン・MRI・CTなどの画像診断を行い、ほかの病気との鑑別・関節障害の確認・関節円板転位の確認を行います。特に近年はMRIの進歩により、関節円板のずれや変形・軟骨の衰えなどが簡単に診断できるようになりました。
- 顎関節症の治療法を教えてください。
- 顎関節症は、経過観察で症状の改善がみられることもある病気です。また、治療を施す場合は8割程の患者さんが保存的治療で改善します。保存的治療では、消炎鎮痛薬をはじめとする薬物療法・スプリントと呼ばれるマウスピース状の装置を取り付けるアプライアンス療法などが施されます。
また理学療法を行う場合もあり、これは電気マッサージや温湿布により血行をよくする治療です。より症状が重い場合は局所麻酔ののち関節円板のズレを治すパンピングマニピュレーションや、点滴注射で関節のなかの炎症を洗浄する関節腔内洗浄療法などの処置も考えられます。
特に重症で関節円板のひどい変形や関節内の癒着・骨軟骨の機能低下などが見られる場合は外科的手術に至るでしょう。外科手術では入院して、全身麻酔で耳の前部を切開し顎関節を開放します。癒着の程度によっては関節鏡下手術が選択されるケースもあり、この場合は皮膚に痕を残さず早期の理学療法が可能になる利点がえられます。
また、患者さんによるセルフケアも治療のために重要です。顎関節症を招く生活習慣が取り除かれなくては症状はなかなか改善しません。そこで患者さんに治療に参加してもらう指導も行います。
具体的には食いしばりを自覚して上下の歯の間を離す習慣をつけてもらうことや、人差し指から薬指までを縦にしてお口に入れてそのまま5秒程おくストレッチなどの指導です。指示にしたがってセルフケアを続ければ、重症でない限りは長くても数ヵ月から半年で9割の方が治癒するともいわれています。
- 治療には保険が適用されますか?
- 顎関節症に対する運動療法・薬物療法・スプリント療法・原因療法・関節腔注射・外科的手術などはすべて健康保険の適応です。症状に応じて歯並びや噛み合わせの修正である歯列矯正治療やブリッジ・入れ歯の治療に至る場合もあり、それらの一部は自費診療となるかもしれません。しかし大部分の患者さんは基本的な治療で治癒しています。
編集部まとめ
顎関節症は女性に多く、特に若年層と閉経期の女性が発症しやすいことがわかりました。顎関節症自体は珍しい病気ではなく、経過観察により自然な改善もみられるような、あまり恐れる必要のない病気だということです。
しかし重症化する場合も皆無ではありませんので、日常生活に支障をきたしたり不快な症状が続いたりする場合は、医院で診察を受けるのがよいでしょう。
ストレスや食いしばり・噛み方のくせなどが顎関節症の原因とみられるため、普段から生活習慣に気を配り、時折意識的に緊張をほぐすことが顎関節症の予防に効果的です。
参考文献