口腔粘膜疾患は何科を受診すればよいかご存知ですか?
お口のトラブルは歯科で対応できる場合もありますが、歯科は歯の専門であり、口腔粘膜の専門ではありません。
なかなか治らない口内炎などは、口腔がんなど別の病気の可能性もあるため、早めの受診が大切です。
この記事では、口腔粘膜疾患の治療で知っておくべき、以下の内容を解説します。
- 口腔粘膜疾患の主な種類
- 口腔粘膜疾患を扱う診療科
- 口内炎で受診する目安
口腔粘膜疾患が疑われる際に、正しい情報をもとに早期対処する参考になれば幸いです。
口腔粘膜疾患の主な種類
口腔粘膜疾患とは、お口の中を覆っている粘膜に生じる疾患の総称です。
お口は消化管の入り口であり、歯以外の部分は口腔粘膜で覆われて、唾液の分泌や栄養の吸収を行っています。
栄養以外の病原体が口腔粘膜に入り込むことも多く、口腔粘膜には重要な免疫機能が集まっており、免疫機能が弱ると病気になりやすい部位です。
また、粘膜は繊細で傷つきやすいため、外傷が契機となって病変となることも少なくありません。
代表的な口腔粘膜疾患には、以下のようなものがあります。
- 口内炎
- ヘルペス性歯肉口内炎
- 口腔がん
- 親知らずの萌出
- 口腔カンジダ症
- 白板症
- 紅板症
- 扁平苔癬
- 口腔乾燥症
それぞれの内容を解説します
口内炎
口内炎は、一般的にみられる口腔粘膜疾患のひとつです。
口腔粘膜を歯で噛んでしまったり、熱い食べ物で火傷したりした後に発症しやすく、接触痛や疼痛を生じます。
口腔粘膜は傷つきやすい部位ですが、粘膜は新陳代謝が活発なため、常に傷が修復されて気が付かないことがほとんどです。
しかし、粘膜の健康を保つ栄養素が不足すると、傷が修復できずに口内炎に進行することもあります。
ビタミンA・ビタミンB群の不足や、慢性的なストレスによって粘膜の新陳代謝が阻害されると、口内炎ができやすくなります。
ヘルペス性歯肉口内炎
ヘルペス性歯肉口内炎は、ヘルペスウイルスの感染によって生じる口内炎です。
外傷や細菌感染ではなく、ウイルス性であるため、ほかの口内炎とは区別されています。
ヘルペスウイルス自体はありふれたウイルスであり、ほとんどの人の体内に潜んでいますが、免疫によって抑えられている状態です。
ストレスや栄養不足によって免疫機能が弱まると、ヘルペスウイルスが活発化して口内炎や全身の発疹となります。
ヘルペス性歯肉口内炎では、多数の口内炎が発生し、食事や睡眠が妨げられる程の痛みとなることが少なくありません。
口腔がん
口腔がんは、口腔粘膜にできるがんの総称で、できる部位によって区別されています。
口腔がん全体の約半数は、舌にできる舌がんです。舌はお口の中で動く舌体と、その奥の舌根に分かれており、舌根にできるがんは中咽頭がんとなります。
口腔がんの初期症状は口内炎と見分けがつかないことがあり、進行してしまうケースが少なくありません。
口腔がんは早期に治療すれば根治が見込めるため、2週間以上治らない口内炎は歯科か口腔外科を受診してください。
口腔カンジダ症
口腔カンジダ症は、かびの一種であるカンジダ・アルビカンスという真菌によって起こる症状です。
カンジダは一般的な皮膚常在菌であり、ほとんどの人の身体に潜んでいますが、免疫を抑える薬などを服用すると発症しやすくなります。
口腔粘膜に白いかびのようなものが発生し、ガーゼや歯ブラシなどで拭い取れるのが特徴です。
悪化すると口腔粘膜がただれ、粘膜が分厚くなって難治性となります。
白板症
白板症は、口腔粘膜が白くなっていく病変で、カンジダと違って拭い取ることはできません。
白くなった部分は接触痛や疼痛を生じ、食べ物がしみることもあります。
詳しい原因はわかっていませんが、喫煙・アルコール・悪い噛み合わせによる慢性的な刺激などが原因と考えられています。
舌にできた白板症は、悪性化して舌がんに進行することもあるため、早めに口腔外科を受診してください。
紅板症
紅板症は、口腔粘膜に赤い病変が広がって接触痛を生じる病気です。
紅板症の約50%が悪性化して口腔がんに進行するといわれており、早めに外科手術で切除するのが望ましいとされています。
赤い部分と正常な部分の境界が明瞭で、2週間以上自然治癒しない場合は、早めに口腔外科を受診してください。
扁平苔癬
扁平苔癬は、粘膜の角化を伴う病変で、口腔内にできるものを口腔扁平苔癬といいます。
粘膜部分に網目状・レース状・環状の白い病変が生じ、接触痛やびらんを伴うことがほとんどです。
難治性で再発を繰り返し、0.4~6.0%の確率で悪性化して口腔がんに進行すると報告されています。
詳しい原因はわかっていませんが、金属アレルギーによる発症も少なくありません。
金属アレルギーが疑われる場合は、金属製の詰め物や被せ物を除去することがあります。
口腔乾燥症
口腔乾燥症は、唾液の分泌量減少によって口腔内が慢性的に乾燥する病気です。
唾液の分泌は自律神経によって支配されており、口腔内だけの問題ではないことがほとんどです。
自律神経の失調や、シェーグレン症候群による自己免疫疾患など全身の病気の症状の一つとして、口腔乾燥症が起こるケースも少なくありません。
慢性的な口呼吸の癖によっても、口腔内が乾燥して粘膜の機能が弱ることがあります。
口腔粘膜疾患は何科を受診すればいい?
お口の中に異常が生じている場合、どの病院を受診すればいいのかわからなくなってしまう患者さんは少なくありません。
まず歯科医院を受診する方がほとんどですが、歯科は歯の診療科であるため、口腔粘膜の疾患には別の科を紹介されることもあります。
口腔粘膜疾患を専門的に担当する診療科は、以下の2つです。
- 口腔外科
- 耳鼻咽頭科
それぞれの特徴を解説します。
口腔外科
歯科が歯を専門的に担当するのに対し、口腔外科は口腔内からお口の周囲の組織・骨格に至る広い範囲を担当する診療科です。
外科的な手術による治療も担当し、総合病院に設置されていることがほとんどです。
口腔外科で勤務医として経験を積んでから歯科医院を開業する場合もあるため、口腔外科に対応する歯科医院も少なくありません。
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科は、耳・鼻・喉を担当する診療科です。
耳・鼻・喉はそれぞれがつながっており、内部は口腔と同じように粘膜で覆われています。
口腔粘膜疾患のなかでも、喉に関する不調は耳鼻咽喉科の方が専門的で、耳や鼻の病気が口腔内に広がっている場合もあります。
喉の病気である扁桃炎・咽頭炎や、咽頭がんの兆候などは、耳鼻咽喉科を受診するとよいでしょう。
口内炎で口腔外科を受診する目安は?
口内炎は、ほとんどの場合2週間以内に自然治癒します。
2週間以上経っても治らず、症状が悪化していく場合には、単なる口内炎ではない可能性が高いでしょう。
特に、舌の側面にできる口内炎は、舌がんの初期症状である可能性があります。
舌がんの初期症状は、舌に固いしこりができる・舌が動かしにくい・色が変わる・しびれるなどです。
口腔内の一部が白や赤に変色するなど、口内炎とは違った症状がでている場合には、早めに口腔外科を受診してください。
口腔外科で行われる口腔粘膜疾患の治療
口腔粘膜疾患は難治性であることが多く、症状を和らげる対症療法が基本となります。
痛みが強い場合には、炎症を抑えるステロイド軟膏や噴霧剤を使用します。
炎症部が広範囲の場合には、麻酔薬の入ったうがい薬を使用することも少なくありません。
痛みの強い口内炎の治療には、レーザーで焼いてかさぶたのようにする治療方法もあります。
口腔カンジダ症やヘルペス性歯肉口内炎の場合には、抗菌薬や抗ウイルス薬によって原因となる病原体を除去します。
口腔粘膜疾患の人は、被せ物などの歯科金属による金属アレルギーが疑われる場合が少なくありません。
金属アレルギー検査が陽性になると、金属製の被せ物を除去して非金属の材料に交換します。
金属アレルギー検査は、すべて皮膚科での検査になります。
初期の口腔がんや、口腔がんに進行する可能性の高い紅板症などは、外科手術で切除するのが一般的です。
粘膜は複数の層にわかれており、一番表面側の扁平上皮からがん細胞が発生します。
がんが扁平上皮にとどまっているうちに切除すれば、ほかの部位に転移することはなく、再発の可能性は低いでしょう。
口腔粘膜疾患の治療には保険が適用される?
口腔粘膜疾患の治療は、保険適用となる場合がほとんどです。
また、お口の中の問題だけでなく身体全体の不調がお口の中に現れている場合もあるため、口腔粘膜疾患は内科や歯科との連携が不可欠です。
難治性となることも少なくありませんが、適切な治療を続けていけば大半の症状は改善していきます。
ただし、噛み合わせや歯科金属が原因となっており、保険適用外の材料に交換する場合には保険は適用されません。
非金属で耐久性の高いジルコニアセラミック製の被せ物は、保険適用外で5万~16万円(税込)が相場です。
噛み合わせ不良によって口腔粘膜を傷つけており、歯列矯正が必要な場合には、80万~120万円(税込)程となります。
歯列矯正は通常保険適用外ですが、厚生労働省が指定する病気の治療のために必要と判断されれば、保険適用される場合があります。
保険適用外の治療が必要なのかどうか、まずは担当の歯科医師に相談してみてください。
口腔外科で扱う主な疾患
口腔外科では、口腔粘膜疾患以外にもさまざまな疾患の治療を担当しています。
お口のトラブルは、まず歯科医院を受診する患者さんがほとんどで、歯科医師が専門的治療が必要と判断した場合には口腔外科を紹介されます。
口腔外科で扱う代表的な疾患は、以下の4つです。
- 親知らずの抜歯
- 顎関節症
- 良性腫瘍・悪性腫瘍
- 顎顔面の外傷瘍
それぞれの内容を解説します。
親知らずの抜歯
親知らずの抜歯で、はじめて口腔外科を訪れる患者さんは少なくないでしょう。
一般の歯科医院でも抜歯は可能ですが、難易度の高い症例では口腔外科を紹介されることがほとんどです。
親知らずが横向きに生えて隣の歯に食い込んでいたり、大部分が歯肉や歯槽骨に埋まっている場合には、抜歯の難易度が高くなります。
親知らずが埋まっている場合には、歯肉や歯槽骨を切開して歯を露出させてから抜歯します。
横向きや傾いて生えている親知らずは、削って分割しながら除去していく手術が必要です。
総合病院の口腔外科では、このような難易度の高い抜歯症例を数多くこなしているため、経験豊富な歯科医師が揃っています。
顎関節症
顎関節症は、顎関節の動きに支障があり、痛みや開口障害を伴う症候群です。
お口を大きく開けすぎたり、食いしばり癖で慢性的に顎関節に負担がかかったりして、顎関節の周囲で炎症が起こることが原因と考えられています。
顎関節の軟骨がすり減って正常に動かなくなると、お口が開かなくなる開口障害を起こし、食事や会話に大きな支障がでることも少なくありません。
健康であれば、お口は人差し指から薬指までの3本を縦にならべて入れられるまで開きます。このときの開口幅が約40mmで、これより開かない場合は顎関節症と診断されます。
顎関節症の治療は、炎症を鎮める薬や、筋肉の過緊張をほぐす薬を用いた対症療法が基本です。
根治のためには、食いしばり癖を改める認知行動療法や、歯並びが原因の場合には歯列矯正が必要です。
顎関節症が慢性化すると、顎の骨が変形してしまう顎変形症となる可能性があり、治療には顎の骨を切る手術が必要になります。
良性腫瘍・悪性腫瘍
腫瘍とは、異常な細胞が現れて、除去されずに増殖した状態です。
人間の細胞は常に新陳代謝を繰り返しており、毎日約1兆個の新しい細胞ができると考えられています。
そのなかには不良品の細胞も含まれており、正常であれば免疫機能によって不良品は除去されますが、除去されずに増殖してしまったものが腫瘍です。
腫瘍は、周りの細胞に浸潤して転移する悪性腫瘍(がん)と、転移や浸潤をしない良性腫瘍に分けられます。
口腔内にできる悪性腫瘍は口腔がんで、良性腫瘍は歯牙腫・エナメル上皮腫・非歯原性良性腫瘍などがあります。
良性腫瘍はがんではありませんが、大きくなって周りの組織を圧迫するようであれば、手術にる摘出が必要です。
顎顔面の外傷
顔面は外傷を受けやすい部位で、特に顎の外傷の治療は口腔外科の担当となります。
顎に外傷を受ける一番大きな原因は交通事故で、救急外来のほか、事故後の慢性的な痛みで受診する患者さんも少なくありません。
ボクシングなどのスポーツ外傷でも、顎は頻度の高い部位です。
顎の骨折や変形だけでなく、歯の破折・脱臼・陥入など、歯に外傷を受けた場合にも速やかに口腔外科を受診してください。
歯が折れたり抜けてしまった場合でも、歯の内部に細菌が侵入して溶かされる前であれば、修復できる可能性は高くなります。
顎や歯の外傷は、顔面の変形を伴い、見た目の問題で悩む患者さんが少なくありません。
早急に適切な治療をすれば治る可能性は高いので、早めに口腔外科を受診しましょう。
まとめ
口腔粘膜疾患の種類や、受診する診療科を解説してきました。
お口のトラブル全般は歯科で対応できる場合も少なくないですが、より専門的な治療を行うのが口腔外科です。
まずは歯科医院で診察してもらい、歯科医師が専門的治療が必要と判断すれば口腔外科に紹介されるでしょう。
歯科は歯の専門であり、口腔粘膜や骨など歯以外の部分は口腔外科が専門となります。
口腔外科は、必要に応じて歯科・耳鼻咽喉科・内科などと連携して、口腔粘膜疾患の治療にあたっていきます。
口腔粘膜疾患は難治性となることもありますが、適切な治療を続ければ症状は改善しますので、普段と違う症状があれば早めに受診してください。
参考文献