親知らず周囲の歯茎が痛い場合は、どのような原因があるでしょうか?
親知らずはむし歯や歯周病になりやすく、親知らず特有の智歯周囲炎という病気もあります。
親知らず周囲からほかの歯や全身に症状が広がっていくこともあるため、歯茎の痛みには注意が必要です。
この記事では、親知らず周囲の歯茎の痛みについて知っておくべき、以下の内容を解説します。
- 親知らず周囲の歯茎が痛くなる原因
- 親知らずが痛い場合の対処法
- 親知らずを抜歯する費用
親知らずのトラブルを悪化させないために、病気の早期発見・早期治療の参考になれば幸いです。
親知らずで歯茎が痛い原因
親知らずは一般的に18~20歳頃に生えてきますが、歯茎の痛みなどのトラブルを起こすことが少なくありません。
親知らずが生えてくる頃にはすでにほかの歯が生え揃っていて十分なスペースがないため、親知らずはまっすぐ生えてくることの方が稀です。
横向きに傾いたり歯肉に埋まったりした親知らずは、正常な歯よりもトラブルを起こしやすく、抜歯が必要なこともあります。
親知らず周囲の歯茎が痛くなるのは、主に以下のような原因によるものです。
- 智歯周囲炎
- 親知らずがむし歯になっている
- 親知らずの周辺が歯周病になっている
- 親知らずの萌出
- 親知らずの抜歯後の痛み
それぞれの内容を解説します。
智歯周囲炎
親知らずは、専門的には智歯といい、智歯の周りで起こる歯茎の炎症を智歯周囲炎といいます。
智歯周囲炎が起こる原因はさまざまですが、お口の一番奥に生えている親知らずは歯ブラシが届きにくいため、汚れがたまって起こることがほとんどです。
一部が歯茎に埋まっている親知らずは、歯と歯茎の間に汚れがたまりやすく、汚れのなかで細菌が増殖すると炎症を起こし始めます。
智歯周囲炎は、はじめは歯茎が腫れて痛む程度の症状ですが、悪化すると発熱や倦怠感など全身症状になることも少なくありません。
智歯周囲炎の症状が広い範囲に及ぶと、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という広範囲の細菌感染症となります。
一度智歯周囲炎を起こした親知らずは、治った後も繰り返し再発する可能性が高いため、抜歯した方がよいでしょう。
親知らずがむし歯になっている
むし歯の痛みが、歯茎の痛みとなって現れている場合もあります。
お口の一番奥に生える親知らずには歯ブラシが届きにくく、第二大臼歯と密着している場合には歯間ブラシも入らなくなります。
このため、歯垢がたまってむし歯になりやすく、むし歯の痛みは歯茎に及ぶ場合も少なくありません。
むし歯や歯肉の炎症は強い痛みを生じますが、患者さん自身の感覚で、歯が痛いのか歯茎が痛いのかを区別するのはほとんど不可能です。
歯茎が痛いと思って受診したらむし歯が発見されるというケースは少なくないため、痛みを感じたら早めに歯科医院で受診しましょう。
親知らずの周辺が歯周病になっている
むし歯になりやすい親知らずは、歯周病にもなりやすい歯です。
むし歯は歯に付着した細菌が歯を溶かしながら進行していくのに対し、歯周病は歯の周りの歯茎で細菌が増殖して、歯槽骨を溶かしていきます。
初期の歯周病は自覚症状がほとんどないまま進行し、痛みを感じる程になるとかなり悪化している可能性が高いでしょう。
歯周病によって歯茎が炎症を起こすと、痛みとともに出血が増えてきます。
歯みがきの際に親知らずの周囲から出血する場合などは、はやめに歯科医院で受診しましょう。
親知らずがむし歯や歯周病になった場合は、治療するメリットが少ないため、抜歯することがほとんどです。
さらにむし歯や歯周病は親知らずの隣の第二大臼歯まで広がっていく可能性が高いため、ほかの歯を守るためにも早期の対応が必要です。
親知らずの萌出
歯が生えてくることを、専門的には萌出(ほうしゅつ)といいます。
新たに歯が生えてくる際には、歯茎を突き破って生えてくるため、痛みやむず痒さを感じることが少なくありません。
親知らずはまっすぐ生えてくることが少ないため、どこまで伸びたら終わりなのかがわかりにくいのが特徴です。
また、一度生えてきた親知らずがしばらくしてから再び伸び始めるケースもあり、歯が伸びるのを止めることはできません。
親知らずの萌出による痛みは一時的なもので、しばらくすると自然に治まるケースがほとんどです。
親知らずの抜歯後の痛み
親知らずを抜歯した後には、しばらく歯茎の痛みが残る場合があります。
抜歯は一般的に局所麻酔下で行われますが、術後数時間すると麻酔が切れて傷口が痛み始めます。
抜歯直後の痛みは数日で治まるケースがほとんどですが、傷口が塞がるには1週間程度かかるため、その間も痛みが生じることは少なくありません。
抜歯後の痛みが1週間以上治まらなかったり、時間とともに悪化したりする場合には、細菌感染を生じている可能性があります。
親知らずが原因の歯茎の痛みはどのくらい続く?
親知らず周囲の歯茎の痛みは、原因によって痛みが続く期間がさまざまです。
抜歯や萌出による痛みは一時的なものであるため、数日から数週間で自然に治まることがほとんどでしょう。
智歯周囲炎や歯周病の場合には、自然治癒することは少なく、時間とともに痛みが悪化していきます。
また、自然に痛みが治まっても、すぐに再発する場合が少なくありません。
人体には細菌増殖や炎症を抑える機構が備わっており、体調がいいときには痛みも抑えられます。
疲れたときやストレスが強いときに歯茎の痛みが再発する場合は、原因が根治しておらず、進行していると考えた方がよいでしょう。
親知らずで歯茎が痛い場合の対処法
親知らず周囲の歯茎が痛い際には、早めに歯科医院で受診するのが第一です。
しかし、すぐに歯科医院に行けない場合もあるため、自宅でできる応急的な対処法も知っておきましょう。
歯や歯茎が痛いときには、主に以下の3つの対処法があります。
- 患部を冷やす
- 市販の痛み止めを飲む
- やわらかめの歯ブラシを使用する
それぞれの内容を解説します。
患部を冷やす
歯茎が腫れて痛い場合には、冷やすことで痛みを緩和できます。
患部を冷やすと毛細血管が収縮し、血液中の炎症物質が届かなくなるため、炎症の進行を抑えられます。
炎症が起きている部位は、血管が拡張して神経を圧迫しているため、冷やして炎症を鎮めましょう。
ただし、お口のなかに氷を直接入れたりすると、刺激が強すぎて逆に悪化する場合もあります。
親知らず周囲が痛い場合には、頬の上から氷嚢や冷やしたタオルを当てたり、冷たい水をお口に含めたりするなどの方法がよいでしょう。
市販の痛み止めを飲む
市販の痛み止めは、痛みを感じる物質の働きを阻害するため、歯や歯茎の痛みにも効果が期待できます。
歯茎の痛みが治まらない場合には、痛み止めを飲めば緩和される可能性が高いでしょう。
ただし、痛み止めには胃痛や下痢などの副作用があるため、購入の際に薬剤師の説明を聞くか、使用前に説明書をよく読んでおいてください。
痛みが治まらないと痛み止めを乱用してしまう方が少なくありませんが、決められた量以上に飲んでも効果は高まらず、副作用のリスクが高まるだけです。
痛み止めを使用する際は、説明書に記載された用法・用量を守り、乱用しないようにしましょう。
やわらかめの歯ブラシを使用する
炎症を起こした歯茎が敏感になっており、歯ブラシの刺激でも痛みが生じることがあります。
痛い部分を磨く際には、毛先がやわらかく、細くなっている歯ブラシを使用してください。
固い歯ブラシだと歯茎を傷つけてしまい、傷口から細菌が感染して炎症が悪化することがあります。
また、毛先が細い歯ブラシは歯周ポケットに入りやすく、歯周病予防にも役立ちます。
痛みが強い部分は、力を入れずにやさしく磨いてください。歯ブラシだけでなく、うがい薬も併用すると、お口の中を清潔に保てるでしょう。
歯茎の痛みで受診する目安は?
歯茎の痛みが数日以上治まらない場合や、何度も再発する場合は、早めに歯科医院で受診してください。
親知らず周囲の歯茎が痛む原因はさまざまであり、放置すると重大な病気に進行するケースも少なくありません。
智歯周囲炎は細菌感染症であるため、進行すると細菌や炎症物質が血流に乗って全身に広がっていきます。
歯周病も同様で、歯周病の原因菌によって動脈硬化や糖尿病が悪化する可能性が報告されています。
歯茎の痛みは自然に治まる場合も少なくありませんが、不安があれば早めに受診しておいた方が無難でしょう。
これくらいで受診していいのかな?と遠慮せずに、まずは歯科医院にご相談ください。
親知らずが原因の痛みがある場合の診療科
親知らずが原因の痛みがある場合には、治療する担当科は歯科だけではありません。
ほとんどの患者さんはまず歯科医院を受診しますが、場合によっては口腔外科に紹介されることもあります。
ここでは、歯科と口腔外科の違いを解説します。
歯科
歯科は歯の診療科であり、むし歯や歯周病などを全般的に診療します。
親知らず周囲の歯茎が痛い場合には、まず歯科で受診して、むし歯や歯周病がないかをチェックしましょう。
また、歯科医院では歯ブラシでは落とせない部分の歯垢や歯石を取るクリーニングも行っているため、むし歯や歯周病の予防に役立ちます。
智歯周囲炎やむし歯によって炎症が強い場合には抜歯ができないため、まずは歯科医院で治療を受けてください。
口腔外科
口腔外科は歯だけではなく、お口の中や顎にまで至る広い範囲を担当する診療科です。
口腔粘膜疾患や顎関節症の治療だけでなく、歯科治療に伴う外科手術も専門的に行っています。
親知らずの抜歯も口腔外科の専門で、横向きや埋伏歯などの難しい抜歯では、歯科から口腔外科に紹介されることが少なくありません。
口腔外科は総合病院に設置されていることがほとんどで、難しい抜歯症例を数多くこなしている経験豊富な歯科医師が在籍しています。
一方、総合病院の口腔外科で勤務経験を積んでから歯科医院を開業する歯科医師もいるため、一般の歯科医院でも口腔外科を併設している場合があります。
親知らずの難しい抜歯や、重度に悪化した智歯周囲炎などは口腔外科で治療するため、お近くの口腔外科はどこにあるか調べてみてください。
親知らずの抜歯にかかる費用
親知らずの抜歯は、一般的なむし歯治療よりも費用がかかることがあります。
保険適用されれば自己負担額は大きくありませんが、事前に確認しておいた方がよいでしょう。
親知らずの抜歯でかかる費用の相場や、保険適用になる場合とならない場合などを解説します。
保険適用の場合の費用相場
親知らずの抜歯は、ほとんどの場合で保険適用となります。
智歯周囲炎・むし歯・歯周病などで痛みが生じている場合、治療のためには抜歯する場合がほとんどで、基本的には3割負担で抜歯が可能です。
横向きに生えている場合や大部分が歯肉に埋まっている場合などは、口腔外科で難しい手術となりますが、費用は大きく変わりません。
一般的に、親知らずの抜歯にかかる自己負担総額は3,000~8,000円程度です。
親知らずが真横に生えて第二大臼歯の根元に食い込んでいる場合は、麻酔したうえで歯肉を切開し、親知らずを割りながら少しずつ取り出していきます。
このような手術では工程が増えるため処置費用も増えますが、ほかと同じく保険適用で基本的に3割負担となります。
また、抜歯後に処方される痛み止めも保険適用です。
自費で抜歯する場合の費用相場
親知らずの抜歯が保険適用とならない場合は、審美目的での抜歯や歯列矯正に伴う抜歯です。
親知らずを抜くと頬骨や顎関節が痩せて小顔になるといわれていますが、実際には目に見える程の変化は起きないことがほとんどです。
このため、親知らずの抜歯を美容目的で行うことは少なく、実際には治療目的として保険適用で抜歯するケースが大半でしょう。
一方で、歯列矯正は保険適用とならないケースが大半なので、歯列矯正のための抜歯は全額自己負担となります。
乱れた歯並びを整えるには、歯を動かすためのスペースを作らなければいけないため、親知らずなど余計な歯を抜くことが少なくありません。
歯列矯正のための親知らずの抜歯には、以下のような費用が全額自己負担でかかります。
- 親知らずの抜歯:6,000~20,000円(税込)程度
- レントゲン撮影:10,000円(税込)程度
- CT撮影:6,000円(税込)程度
歯列矯正にかかる費用は症例によって大きく異なりますが、一般的には800,000〜1,200,000円(税込)程度が相場です。
ほかには、特殊な病気や全身の症状が悪いことにより、親知らずの抜歯で全身麻酔やCT撮影による詳細な検査が必要な場合があります。
抜歯自体は保険適用でも、保険適用外の処置が必要な場合があるため、歯科医師とよく相談してください。
まとめ
親知らず周囲の歯茎が痛い原因や、対処法を解説してきました。
親知らずはほかの歯が生え揃ってから生えてくるため、まっすぐ生えることは稀で、トラブルを起こすことが少なくありません。
親知らず周囲の痛みを放置していると、炎症が悪化して全身症状に進行する可能性もあるため、早期の治療が必要です。
むし歯や歯周病はほかの歯に広がっていくリスクもあるため、お口全体の健康を守るためにも親知らず周囲の歯茎の痛みは放置せず、早めに歯科医院で受診しましょう。
参考文献