口の中や舌に赤いできものができたら、まずは口内炎を疑う方が少なくないのではないでしょうか。しかし数日経過しても改善がなく、痛みが伴う場合には、紅板症の可能性があります。
紅板症は口腔内の病変や痛みがあるだけでなく、悪性化する可能性のある病気です。早期に発見することで、適切な治療が受けられるでしょう。
本記事では、紅板症とはどういった病気か解説します。紅板症の症状・悪化の可能性・治療方法・予防方法についても解説していきます。
紅板症は舌にできる病気?
- 紅板症はどのような病気ですか?
- 紅板症は口の粘膜の一部が盛り上がったり、赤いびらん・潰瘍ができる病気です。紅色肥厚症とも呼ばれます。口腔内に鮮紅色のビロード状の紅斑が生じ、紅斑の表面は平坦でツルツルしている病変です。
口腔内が赤くなると炎症や感染を起こしていると考えがちですが、紅板症は炎症や感染によるものではありません。紅板症は、粘膜が肥厚し白くみえる白板症と混在して発生する場合もあります。紅板症の発症に性差はなく、50代以上の方が罹患率の約80%を占めています。
- 紅板症の原因を教えてください。
- 紅板症の原因は正確には明らかにされていません。しかし、口腔内に起こる慢性的な刺激が原因ではないかと考えられています。具体的には、アルコール・喫煙・不良補綴物(ふりょうほてつぶつ)・ビタミンA・ビタミンBの不足・加齢などです。アルコールの摂取や喫煙習慣は口腔がんの原因ともいわれています。
日頃から、アルコールの摂取や喫煙習慣がある方は少しずつ減らしていくとよいでしょう。不良補綴物とは、歯に被せたものが合っていないもののことです。むし歯治療のときに使われることが少なくないですが、材質や時間経過によって合わなくなってしまうこともあります。不良補綴物がある場合には、歯科医院で適切な治療を受けるようにしましょう。
- 紅板症の症状を教えてください。
- 紅板症の症状は口腔内にできる病変と、病変部に痛みが生じることです。紅板症の部分はつるっとなめらかで、紅斑は周囲との境界が明瞭であることが少なくないです。そのため、紅板症のできた場所によっては肉眼で確認することができるでしょう。
紅板症の部位を舌や手で触ったり、刺激物を食べたりすると痛みを感じます。歯磨きや食事による刺激で痛みを感じたことをきっかけに、口腔内の病変に気が付くこともあるかもしれません。口腔粘膜にトラブルが起こる病気として、白板症・口腔カンジダ・扁平苔癬・口内炎などがあります。
口内炎などは時間経過とともに治癒することもありますが、紅板症は時間経過により治癒するものではありません。そのため3週間以上の長期にわたり症状が継続する場合には、紅板症の可能性があるため歯科医院を受診しましょう。
- 紅板症は舌にもできますか?
- 紅板症は舌・歯肉・口腔粘膜にできるものです。舌にできる場合もあります。痛みを伴う病変であるため、特に舌にできた場合には、食事や歯磨きによる刺激を受けやすいことがあります。
歯磨きのときはできるだけ接触しないよう優しく磨き、食事は刺激の強いものは控えるようにしましょう。舌・歯肉・口腔粘膜に病変を発見した場合には、早めに歯科医院を受診するとよいでしょう。
- 紅板症は悪性化する病気ですか?
- 紅板症は前がん病変といわれ、悪性化する可能性のある病気です。紅板症自体の発症はまれですが、悪性率が高い病変で、約半数ががん化する可能性があります。
紅板症のなかでも、特に舌にできたものは悪性化する可能性が高いといわれているため注意が必要です。悪化しやすい特徴として、患部が潰瘍になっている・硬いしこりや腫れを伴う・病変が多発していることなどが挙げられます。
進行することで痛みだけでなく、口が開けにくい・食事が飲み込みにくい・話しにくいといった症状が現れることがあります。口腔内は鏡を使えば自分で確認することができるため、気になる症状があれば口腔内を確認してみましょう。
紅板症の診断や治療
- 紅板症が疑われる場合は何科でどのような検査をしますか?
- 紅板症が疑われる場合は口腔外科を受診するとよいでしょう。かかりつけの歯科医院がある場合は、かかりつけの歯科医院へ相談し、必要に応じて連携している口腔外科を紹介してもらいましょう。
紅板症は白板症・口腔カンジダ症の紅班型・扁平苔癬・口内炎などと似た症状があるため、これらの病気との鑑別が大切です。紅板症の検査は、擦過細胞診と生検組織診断が行われます。擦過細胞診は、患部をこすり表面の細胞を採取する方法です。患部に痛みが生じている場合は刺激による痛みがあるかもしれません。
また、紅板症は口腔粘膜の表面の上皮に形成されることが少なくないですが、さらに深い部分まで進行している上皮内がんや扁平上皮がんである場合もあります。そのため、生検組織診断で詳しく調べることが必要です。生検組織診断により、がん細胞の有無や病変の進行度を調べることができ、治療方針を決定していきます。
- 紅板症の治療方法を教えてください。
- 紅板症の原因が不良補綴物やビタミンA・ビタミンBの栄養素不足である場合には原因の除去を行います。不良補綴物が原因と考えられる場合は、病変の刺激にならないよう詰め物の調整が必要です。
また、栄養素不足が原因と考えられる場合には、ビタミンAの投与が行われます。しかし、紅板症はがん化する可能性が高い病気です。そのため、原因の除去で改善しない場合には、切除手術が推奨されています。切除した範囲により合併症が起こるリスクもあるため、治療方針は歯科医師と十分相談して決定していきましょう。
- 治療後も経過観察が必要ですか?
- 紅板症は治療後も長期的に経過観察が必要です。紅板症の病変部分を切除しても、手術で取り切れないがん組織が残っている可能性があり、再発するリスクがあるからです。紅板症だけでなく、口腔がん・咽頭がん・食道がんなどが同時にできる場合もあります。
なぜなら、これらのがんも紅板症と同様に、アルコールの摂取や喫煙習慣が原因の1つとなっているからです。そのため、紅板症になったらアルコールの摂取を控え、喫煙習慣をやめるようにしましょう。また、再発リスクがあることを忘れず、長期的に観察を続けていきましょう。
万が一再発した場合にも、定期的に経過観察をしていれば病変を早期に発見することができます。早期に病変を発見することでがん化する前に治療を開始することができ、予後への影響を減らすことができるでしょう。
紅板症の早期発見と予防方法
- 紅板症を早期発見する方法はありますか?
- 紅板症を早期発見する方法は、日常的に口腔内の観察を習慣付けることです。舌や頬粘膜・歯肉・舌の下などを観察し、トラブルが起きていないかなどをチェックします。
口腔内のトラブルだけでなく、口腔粘膜の色を知ることも大切です。健康な口腔粘膜は薄いピンク色をしており、口腔粘膜が異常に赤い・白いといった状態はよい状態ではありません。紅板症は粘膜が赤く肥厚した病変であるため、自分の口腔粘膜の色を知っていれば早期に発見することができるでしょう。
また、歯磨きや食事の刺激により口腔内に痛みを感じたときも注意が必要です。痛みを伴う口腔粘膜の異常がある場合には、紅板症の可能性が考えられるため、歯科医院を受診し相談するようにしましょう。
- 紅板症を予防する方法はありますか?
- 紅板症を予防する方法は明らかにされていません。しかし、口腔内を清潔に保つことはとても大切です。
食事の後は歯ブラシや歯間ブラシを使用し歯磨きを行い、口腔内を清潔に保つよう心がけましょう。口腔内を清潔に保つことで、口腔内の細菌による感染症などを予防することができます。
また、不良補綴物がある場合、紅板症の原因となることがあります。不良補綴物があれば、かかりつけの歯科医院を受診し、研磨するなど適切な処置を依頼しましょう。定期的に歯科検診を受け、口腔内をクリーニングしてもらうこともおすすめです。
編集部まとめ
紅板症は舌や頬粘膜に鮮紅色の紅斑が生じる病気です。潰瘍やびらんが生じることもあり、刺激による痛みを伴うことがあります。
紅板症は前がん病変と呼ばれ、悪性化しやすい病気です。そのため、早期発見や早期治療がとても大切です。
治療は切除手術が推奨されています。そのため、紅板症の可能性がある場合には口腔外科を受診するとよいでしょう。
日頃から口腔内を観察する習慣を身に付けることで、口腔トラブルの早期発見をすることができます。定期的に歯科医院で検診を受け、異常の早期発見に努めましょう。
参考文献