日常生活に支障をきたすほどの顎関節症は、多くの人にとって悩みの種です。
顎関節症は自宅でのセルフケアで改善することは可能でしょうか?
本記事では顎関節症のセルフケアについて以下の点を中心にご紹介します。
- 顎関節症の原因
- 顎関節症のセルフケアについて
- 顎関節症の治し方
顎関節症のセルフケアについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
顎関節症とは
顎関節症(がくかんせつしょう)は、顎の関節や周囲の筋肉に痛みや動きの制限が生じる状態です。顎関節症は、口を開け閉めする際の音や痛み、食事や会話の困難さとして現れます。原因は多岐にわたり、不正な噛み合わせやストレス、歯ぎしりなどが挙げられます。
治療には、生活習慣の改善やマウスピースの使用、場合によっては手術が必要です。早期の診断と適切な対処で、日常生活への影響を抑えられます。顎関節症についての理解を深め、症状に気づいたら医師の診察を受けましょう。
顎関節症タイプ別
顎関節症の種類は一つではありません。あなたの顎の痛みはどのタイプに該当するのでしょうか?以下では、顎関節症の各タイプを詳しく解説します。
Ⅰ型
Ⅰ型顎関節症は、主に顎の筋肉の使いすぎによって引き起こされる筋肉痛です。咬筋と側頭筋が関与しており、咬筋と側頭筋は顎の動きを支える重要な役割を担っています。咬筋は頬に、側頭筋はこめかみに位置しており、過度に緊張することで痛みが生じます。痛みは頭痛として感じられることもあります。
Ⅰ型の治療には、筋マッサージや顎の安静が効果的といわれています。筋マッサージによって筋肉の緊張を和らげ、顎の動きをスムーズにすることが目的です。
また、顎を安静に保つことで筋肉が自然に回復するのを助けます。このタイプの顎関節症は、日常生活での顎の使い方に注意を払うことで予防することも可能です。 例えば、硬い食べ物を避けたり、歯ぎしりや食いしばりの癖を改善することが有効とされています。
Ⅱ型
Ⅱ型顎関節症は、関節靭帯の異常が原因で起こる疾患で、「あごのねんざ」とも表現されます。Ⅱ型の主な原因は、口を無理に開け過ぎたり、硬い食べ物を食べたりすることです。また、歯ぎしりや食いしばりによっても発症することがあります。
顎関節は耳の穴の直前に位置しているため、Ⅱ型の症状は耳の痛みとして感じられることが多く、耳鼻咽喉科を受診する患者さんもいます。治療にあたっては、あくびを控えたり、硬い食べ物を避けたりすることが推奨されます。食事の際には、食べ物を小さくカットして、あまり大きく口を開けなくても良いように工夫することが大切です。
可能な限り顎を安静に保つことが治療の基本となります。しかし、安静だけでは症状が改善しない場合もあります。そのような場合には、専門的な治療が必要となることがあります。例えば、マウスピースを使用して顎の位置を調整する治療や、顎関節専門外来での治療が行われることがあります。
顎関節症のⅡ型は、日常生活におけるさまざまな習慣や行動が原因となって発症することが多いため、生活習慣の見直しや、正しい食事の摂り方を学ぶことも重要です。
Ⅲ型
Ⅲ型顎関節症は、関節円板の位置異常によって特徴づけられるタイプです。関節円板は、顎の動きをスムーズにし、衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています。円板が適切な位置からずれると、口を開け閉めする際に「カクカク」とか「ポキポキ」といった音が生じることがあります。これを「関節雑音」と呼びます。
多くの場合、関節雑音は痛みを伴わず、治療の必要はありません。しかし、円板のずれが進行すると、音が消えて開口障害が発生することがあります。開口障害がある場合、マウスピース治療が行われます。マウスピースは、顎の位置を調整し、関節にかかる負担を軽減するための装置です。効果が不十分な場合は、さらに専門的な治療が必要になる可能性があります。
Ⅳ型
Ⅳ型顎関節症は、下顎骨の関節突起の変形によって生じる疾患です。Ⅳ型は、症状だけでは診断が難しいため、レントゲン撮影による骨の変形の確認が重要です。
変形した骨を元通りにすることは困難であるため、治療の目標は「痛みなく」「十分に口が開く」ことにあります。治療方法としては、マウスピース治療や開口訓練が行われます。
Ⅳ型顎関節症の患者さんは、しばしばあごの痛みや開口障害を経験します。しかし、この症状は他の顎関節症のタイプとも共通しているため、正確な診断のためには、専門的な検査が必要です。レントゲン撮影は、骨の変形を確認するための重要な手段であり、診断の第一歩となります。
Ⅳ型顎関節症の治療には、痛みを軽減し、口の開口機能の改善が目的でマウスピースを使用します。マウスピースは、あごの負担を軽減し、適切な位置に関節を保持するために使用されます。また、開口訓練によって、あごの動きを改善し、口を開ける際の痛みを減少させます。
Ⅴ型
Ⅴ型顎関節症は、顎関節症の中でも特に分類が難しいケースに当てはまります。Ⅴ型は、Ⅰ型からⅣ型までのいずれの特徴にも完全には当てはまらない状態を指します。複数のタイプが組み合わさっている場合や、まだ明確に定義されていない新しいタイプの可能性も含まれます。
患者さんは、顎関節症の典型的な症状である「開口時痛」や「開口障害」、「関節雑音」などを経験するかもしれませんが、他のタイプと明確に区別できない場合があります。そのため、Ⅴ型の診断には、より詳細な医学的評価が必要となります。
治療に関しては、Ⅴ型の顎関節症は個々の患者さんの症状や状態に応じて、カスタマイズされたアプローチが求められます。痛みの管理、関節の機能改善、ストレス軽減などが挙げられますが、これらはあくまで基本的な方針であり、実際の治療計画は患者さん一人ひとりのニーズに合わせて調整されます。
例えば、痛みの管理では、非ステロイド性抗炎症薬や筋弛緩剤の使用が考えられます。また、物理療法やカウンセリングを通じてストレスを軽減し、顎関節の負担を減らすことも重要です。さらに、患者さんの生活習慣や行動の変更を促すことで、症状の改善が期待できます。
顎関節症の原因
顎関節症はなぜ起こるのでしょうか?
噛み合わせの問題やストレス、外傷など、さまざまな原因が考えられますが、自分にとっての主な原因は何なのでしょうか?
以下では、顎関節症の原因を探り、理解を深めることを目指します。
噛み合わせ
顎関節症症状の一因として「噛み合わせ」が挙げられます。噛み合わせとは、上下の歯が正しく接触することで、顎のバランスを保つ重要な役割を果たしています。しかし、噛み合わせが悪いと、顎関節に負担がかかり、顎関節症を引き起こす可能性があります。
噛み合わせの不具合は、顎の筋肉に過剰な力がかかることで、顎関節にも影響を及ぼします。例えば、歯ぎしりや食いしばりは、顎の筋肉や関節に大きな力がかかり、顎関節症につながることがあります。また、歯列接触癖(TCH)という無意識の習慣も、顎関節症の原因になり得ます。歯列接触癖は食事をしていない時にも歯を噛み合わせてしまう癖のことで、顎の筋肉に負担をかけることになります。
さらに、顎の大きさのバランスが悪いことも噛み合わせの問題を引き起こします。受け口や出っ歯など、顎の形状によっては、噛み合わせが悪くなりやすく、顎関節症を引き起こすリスクが高まります。噛み合わせの問題は、遺伝的な要因や生活習慣によってもたらされる場合もあります。
生活習慣
顎関節症の背後には、日常生活のさまざまな習慣が影響していることがあります。
- 歯ぎしりや食いしばり: 歯ぎしりや食いしばりは、顎の筋肉や関節に過度な負担をかけ、顎関節症を引き起こす可能性があります。睡眠中に無意識のうちに行われることが多く、顎への圧力が継続すると、症状が悪化することがあります。
- 歯列接触癖(TCH): 日常的に歯を軽く噛み合わせる癖は、顎の筋肉に常に緊張を与え、顎関節症を引き起こす原因となります。歯列接触癖は多くの人に見られるといわれています。意識して改善することが重要です。
- 姿勢の悪さ: 猫背や頬づえなど、不自然な姿勢を長時間続けることは、顎の位置に影響を及ぼし、顎関節症の原因になります。正しい姿勢を保つと、顎への負担を減らせるといわれています。
生活習慣を見直し、改善すると、顎関節症のリスクを減らせるでしょう。また、早期に治療を受けることで、症状の悪化を防げます。
精神的要因
顎関節症の原因は多岐にわたりますが、精神的要因も大きく関与しています。
日常生活におけるストレスは、無意識のうちに歯を食いしばる行動や、就寝中の歯ぎしりにつながることがあります。これらの行動は、顎の筋肉に過剰な負担をかけ、顎関節症を引き起こす可能性があります。
ストレスを軽減するためには、リラクゼーションが効果的とされています。趣味やスポーツなどを通じてストレスを発散させることで、顎関節症の予防につながります。また、睡眠不足もストレスと関連があるため、十分な睡眠を取ることも重要です。
外傷
外傷とは、事故やスポーツ中の衝撃などによって顎に直接的なダメージを受けることを指します。このような外力が顎関節に加わると、関節円盤の位置がずれたり、関節そのものが損傷したりすることがあります。
スポーツをしている際に接触が伴う競技では、顎に強い衝撃を受けるリスクが高まります。例えば、ボクシングやラグビー、マーシャルアーツなどのスポーツでは、顎を守るために専用のマウスピースを使用することが推奨されています。顎関節症を予防するだけでなく、顎や歯を保護する役割も果たします。
また、交通事故や転倒などによる急激な衝撃も、顎関節症の原因となる外傷に該当します。顎が強打されると、関節の構造に異常が生じ、痛みや機能障害を引き起こす可能性があります。外傷による影響は、時には即座に症状として現れることもあれば、時間をかけて徐々に悪化することもあります。
顎関節症の治療には、症状や原因に応じたアプローチが必要です。外傷によるものであれば、まずは患部の安静を保ち、炎症を抑える治療が行われることが多いです。必要に応じて、物理療法やマウスピースの使用、場合によっては手術が検討されることもあります。
顎関節症の治し方
顎関節症の治療法は、何があるのでしょうか? 自宅でできるケアから専門的な治療まで、どの方法が効果的といわれているのでしょうか?
以下では、顎関節症の治療法について詳しく解説します。
セルフケア
顎関節症の症状を自宅でケアする方法には、以下の手段があります。
- 癖の認識と改善: 顎関節症の一因となるのは、無意識のうちに上下の歯を接触させる癖です。癖を意識し、歯を離すことで筋肉の緊張を和らげ、あごへの負担を減らすことが大切です。
- 口を開ける練習: あごの動きをスムーズにし、筋肉のストレッチ効果を得るために、口をゆっくりと大きく開ける練習をします。痛みを感じない範囲で行い、筋肉をリラックスさせることが目的です。
- マッサージ: 顎関節症に関連する筋肉を優しくマッサージすることで、血流を促進し、緊張をほぐして痛みを軽減します。咬筋や側頭筋に注目し、1日数回行うと効果が期待できます。
- 負担をかける行動の改善: ほおづえをつく、うつ伏せで寝るなど、あごに負担をかける習慣を避けると、顎関節症の予防や改善につながります。
セルフケア方法は、顎関節症の症状を和らげるための一助となりますが、症状が重い場合や改善が見られない場合は、専門の医療機関を受診することをおすすめします。
スプリント治療
スプリント治療では、患者さんの症状に合わせたマウスピースを作製し、装着することで顎関節の負担を軽減します。
スプリント治療の主な目的は、顎関節への過度な圧力を和らげ、筋肉の緊張を緩和することです。顎関節症による痛みや不快感を軽減し、日常生活の質を向上させることが期待されます。
マウスピースは、上あるいは下の歯列を覆う形で作られ、就寝中などに装着します。無意識のうちに行われる歯ぎしりや食いしばりを防ぎ、顎関節をリラックスさせる効果が期待できます。
スプリント治療を行う際は、まず医師による詳細な診断が必要です。その後、患者さんの口腔内の型を取り、個別にマウスピースを作製します。装着後は定期的なフォローアップが行われ、症状の改善状況を確認しながら治療を続けます。
顎関節症の症状を緩和するための補助的な手段であり、根本的な原因に対する治療ではありません。したがって、スプリント治療と並行して、ストレス管理や姿勢の改善など、生活習慣の見直しも重要です。
薬物療法・理学療法
顎関節症における薬物療法は、痛みを軽減するために用いられます。医師は、患者さんの症状や痛みの程度に応じて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や筋弛緩薬を処方することがあります。顎関節周囲の炎症を抑え筋肉の緊張を緩和し、顎の動きをスムーズにし、痛みを和らげる効果が期待できます。
理学療法では、物理的な手法を用いて顎関節の機能を改善します。例えば、温熱療法や冷却療法は、血行を促進し炎症を軽減するために使用されます。また、ストレッチやマッサージは、顎関節周囲の筋肉をほぐし、関節の可動域を広げるのに役立ちます。
まとめ
ここまで顎関節症のセルフケアについてお伝えしてきました。顎関節症のセルフケアの要点をまとめると以下の通りです。
- 顎関節症の原因は、外傷やストレスが顎関節に負担をかけ、痛みを引き起こすとされている
- 顎関節症のセルフケアは、口の動きの改善、ストレス軽減、マッサージで症状緩和が期待できる
- 顎関節症の治し方は、薬物療法や理学療法で痛みを管理し顎機能を改善に努める
セルフケアから専門的な治療まで、さまざまな方法を紹介してきましたが、重要なのは自分に合ったケアを見つけることです。
日々の生活の中で少しでも症状の改善につながることを願っています。