親知らずを抜きたいと思う人にとって、費用がどれだけかかるのか、というのは大変気になるところです。
親知らずが生えてきたからといって必ずしも抜歯しなければならない、というわけではありませんが、歯周病やむし歯などさまざまなリスクの原因となることも少なくありません。
とはいえ、抜歯をするとなると費用だけでなくどのような処置が施されるのか、どれぐらいの治療期間が必要なのかいろいろな疑問が出てくるでしょう。
この記事では親知らずに悩むみなさんの疑問や不安を解消できるよう、親知らずの治療の方法やその費用を紹介します。
親知らずの抜歯にかかる費用
親知らずを抜く場合ですが保険が適用されるので、抜歯に必要な費用は全体の1~3割負担となります。
ただし、これはあくまでも親知らずの抜歯を処置してもらうために歯科医院に支払う費用であって、このほかにもさまざまな費用が発生します。
たとえば施術前の検査や治療後に服用する痛み止めなどの薬代、さらには歯科医院まで行くための交通費なども親知らずの抜歯に必要な費用と考えておいたほうがよいでしょう。
親知らずにもさまざまな種類があり、種類によって処置の費用も変わってきます。
それぞれの抜歯にかかる費用相場
親知らずの抜歯をする場合の費用は、抜歯の難易度によって変動します。歯によっては処置がしやすい生え方をするもの、逆に抜歯が難しいものなどさまざまです。
特に親知らずは奥歯のさらに奥から生える歯のため、ただでさえ抜歯の難易度が高い歯といわれています。
ここでは、それぞれの抜歯にかかる費用の相場をまとめてみました。 歯を抜く際の費用の目安として参考にしてください。
普通抜歯
歯を抜く場合、抜きやすいのは歯がまっすぐに生えている場合です。このような場合は歯を抜く際の障害となるようなものがないため、抜歯の難易度が低い普通抜歯となります。
また、歯が斜めに生えることが多い親知らずですが、このような生え方をしている場合でも普通抜歯として処置できるケースは少なくありません。
普通抜歯の場合は特別な処置が必要ありませんので、施術そのものの費用の相場は保険適用で1,500円~5,000円です。
これは平均的な相場であり、このほかにも別途検査料金などの費用が発生する可能性もあります。
骨性完全埋伏歯
「骨性完全埋没歯」は、骨の中に包まれて埋まっている状態の歯のことです。
親知らずのなかでもこの骨性完全埋没歯は、歯が骨の中に埋まってしまっている状態ですので歯を抜くための難易度はかなり高いほうです。
そのため歯科医院によっては処置をすることができないケースもあり、抜歯の費用も高額になるようです。このような骨性完全埋没歯の抜歯にかかる費用は4,000円~10,000円が平均的な相場となっています。
歯が埋まっている状態であっても、口腔内での影響が少ない場合は抜歯しないという診断が出る場合もあります。
水平埋伏歯
水平埋没歯とは、歯が歯茎や骨の下に水平に埋まってしまっている状態です。平たくいうと、歯が横向きに生えている歯をさします。
先程説明した骨性完全埋没歯と同じく歯が外に出ていない状態なので、このような状態の歯を抜く難易度はかなり高いです。
抜歯にかかる費用は施術が難しくなる程高額になる傾向にあり、この水平埋没歯のような特殊な症例の抜歯は費用が高くなります。
水平埋没歯の抜歯をする場合は、歯茎や骨の一部を削るなどの外科手術を行い、その後抜歯をするなどの方法が一般的です。
歯を抜くための前準備が必要なことから、抜歯の費用相場は4,000円~10,000円が目安となります。
難抜歯
一言で親知らずといっても、その歯の生え方にはさまざまなものがあります。なかには抜くことが難しいような生え方をしているものもあり、まっすぐ生えていない場合は基本的に「難抜歯」として区分されます。
たとえば歯が骨の中に埋まっている埋没歯や、横向きに生えているうえに歯茎の中に埋まっている水平埋没歯などが難抜歯の代表的なものです。
歯の根が曲がっていたり骨に囲まれていたりする場合もあり、こうした歯の場合は歯を抜く前に周囲の骨を削るなどの別の処置が必要となります。
歯を抜くことが難しい難抜歯の場合は治療にかかる費用も高額であり、平均すると5,000円~10,000円が相場の目安です。
難抜歯は処置に必要な時間も長くなるので、治療の際にはしっかりと歯科医師と相談をするようにしましょう。
抜歯の当日の流れ
親知らずを抜歯することになった場合は、基本的には以下のような流れで抜歯が行われます。
まずは塗り薬で表面麻酔を行い、その後注射で麻酔をすることで抜歯の際に痛みがないようにします。最初の表面麻酔は注射の痛みを和らげることが目的です。次に歯を覆っている歯肉や歯茎、骨などを切開して歯を抜きやすくします。
実際に歯を抜いた後に行われる処置が洗浄です。この洗浄を行うことで歯を抜いた後に空いた穴に残った歯の残骸を取り除きます。
その後、空いた穴や切開した歯茎、歯肉などを縫合して処置を終了します。ここまでにかかる時間は抜歯の難易度にもよりますが、30分~1時間程度です。
歯を抜くための難易度によって予定は変動しますが、基本的には上記で説明したような流れで抜歯が行われます。
難しい抜歯で必要な手術内容
親知らずを抜歯するための難易度が高い場合は、歯を抜くまでに外科手術が行われることがあります。これは歯の生える位置や生え方などによって、抜歯までのアプローチが難しい場合に行われる手術です。
ここではそんな抜歯のために必要な手術を紹介しています。
粘膜剥離
歯が骨や歯茎、歯肉などを囲った状態で生える親知らずの場合は歯を抜くことが難しくなります。
粘膜剥離とは、歯を囲っている粘膜を剥がして抜歯をする方法です。
粘膜そのものを切り取るのではなく、粘膜をめくって親知らずを抜きやすくすることが目的で、抜歯の前準備として必要な処置です。
やや患者さんへの負担も大きい手術ですが、処置に必要な時間は可能な限り短時間になるよう配慮されています。
難易度が高い処置のため歯科医院によっては対処できない場合もあり、そのような場合は大きな医院への紹介状を用意してもらうことになるでしょう。
骨削除
骨削除とは、その名のとおり骨を削除する手術です。親知らずの生え方によっては歯の周りを歯槽骨が囲ってしまっている場合もあるので、そのような場合には周囲の骨を削る必要があります。
骨を削るといっても必要最低限の削除しか行いませんので、日常生活に支障が出るようなことはありません。また、手術の際には麻酔をしたうえで処置を行うので、痛みがほとんどない状態で手術を受けることができます。
手術後には洗浄や消毒などの処置も施されますが、これは化膿などの後遺症が出ないための配慮です。骨削除も含めた抜歯の費用は歯の位置や骨の状態によって金額に違いがあり、15,000円~20,000円が相場の目安となっています。
歯牙分割
歯牙分割は、完全に歯を抜いてしまう抜歯とは異なり、歯を部分的に抜く治療法です。
奥歯のように複数の歯根がある歯の場合は、すべての歯根が悪化することがありませんので、症状が出ている歯根だけを部分的に抜いて健康なほうの歯根を残す治療を行います。
歯をすべて抜かないものの、処置をした部分は歯根がない状態になるので、その歯は隣の歯とブリッジで連結する場合が一般的です。
親知らずの治療でも、歯根以外は健康であるなどの条件が整っていれば問題のある部分だけを取り除くことができます。
必要以上に歯を失うリスクを回避できることから抜歯以外の治療法としてこの方法が選択されるケースもあります。
親知らずを放置することで起こる症状は?
親知らずが生えていても痛みや腫れなどの自覚症状がなければなかなか気付かないものです。
また、親知らずが生えていることに気付いても特に何も影響がないのでそのまま放置してしまっているという人も少なくありません。
では親知らずが痛くなければ放置していても問題ないのでしょうか。
ここでは親知らずを放置して起こる症状を紹介します。思いもよらない症状が引き起こされることもあるので、気になる場合は歯科医院に相談してみてください。
親知らずの周囲に腫れを生じる
親知らずを放置しているとその周囲で腫れが起こることがあります。親知らずは口の中でも奥歯のさらに奥に生えることから雑菌が繁殖しやすいという特性を持っているためです。
ただでさえ奥歯は磨きにくいですが、そのさらに奥に生える歯ともなれば歯磨きはさらに難しくなります。
もしも今は痛みがなくても、歯を磨いているときに親知らずの周辺に違和感があれば、歯科医院で診察してもらうようにしましょう。
普段の歯磨きはこうした口の中の異変に気付くという意味でも重要なものといえるかもしれません。痛くないからといって親知らずを放置しないことが大切です。
痛みが生じる
親知らずといえば「痛い」というイメージがありますが、その痛みが起こる原因にもさまざまなものがあります。代表的な例といえるのが親知らず周辺に雑菌が繁殖して炎症を引き起こすケースです。
このほか、親知らずがほかの歯や骨を押しているために痛みを感じるということもあります。
親知らずはまっすぐに生えずに斜めに生えたり、歯茎や骨の中に埋まった状態で生えてきたりすることがあり、それがほかの骨や歯を圧迫して痛みを引き起こすことがあるのです。
この場合の痛みは親知らず周辺が痛い、というよりも顎全体に強い痛みがあります。
親知らずが原因で引き起こされる痛みには原因によってさまざまなものがありますが、歯が痛いと感じたら歯科医院で診てもらうようにしましょう。
歯並びが変化する
歯並びの変化も親知らずによって引き起こされるトラブルのひとつです。親知らずは、永久歯が生え揃った後に生えてくる歯のため、ほかの歯を圧迫して歯並びが悪くなることがあります。
歯並びは見た目だけでなく、上下の歯の噛み合わせにも大きく影響しています。歯並びが悪くなると顎のバランスも悪化し、それが体全体のバランスの悪化につながることから、健康状態という意味でもよい状態とはいえません。
親知らずが生えていても痛くないから、あるいは歯並びが多少悪くても気にしないから、という理由で放置していると思いもよらないトラブルが引き起こされる可能性があるのです。
むし歯が生じる
自分でも知らないうちに生えてくる親知らずは、ほかの歯に比べてむし歯を引き起こしやすい歯です。これまで説明してきたように、親知らずは奥歯のさらに奥から生えてくるため歯磨きが難しい位置にあります。
そのため、歯の汚れがたまりやすくむし歯になりやすいのです。
また、奥歯のさらに奥にあることからむし歯になっていても気付かないことが多く、痛みを感じて初めてむし歯になったと気付くこともあります。気付いたときにはすでにむし歯がかなり進行しているケースも珍しいことではありません。
親知らず周辺に繁殖した雑菌が口の中全体に広がって、健康な歯もむし歯になってしまう可能性もあるので、自身の歯の状態は常に気をつけておきたいところです。
口が開きにくくなる
口が開きにくくなる要因にはさまざまなものがありますが、親知らずがその原因として引き起こされる場合もあります。口の開閉は顔の筋肉が大きく関係しており、親知らずによって引き起こされた炎症が顔の筋肉に影響を及ぼすことがあるためです。
また、ほかの歯とは異なる生え方をする親知らずは、顎の動きにも異常をきたすことがあり、それが顎の痛みや口が開きにくいなどの症状として現れることもあります。
口が開きにくくなると抜歯を始めとする親知らずの治療も難しくなるので、少しずつ口を開けるためのリハビリを行うなど、治療期間が長期になりがちです。
奥歯に違和感があれば早めに歯科医院でその原因となるものがないか診察を受けましょう。
抜歯以外の親知らずの治療方法
歯を抜く以外にも親知らずの治療方法には、さまざまなものがあります。たとえば親知らずがまっすぐに生えている場合や、ほかの歯への圧迫などの口の中への影響が少ない場合などは、歯を抜かずに削る方法です。
また、親知らずを抜かずに歯根だけを分割し、隣の歯とブリッジで連結する方法もあります。
こうした治療はできるだけ歯を残すという目的で行われるものですが、親知らずが斜めに生えていない、処置しやすい位置に生えているなどの条件が整っていることが必要です。
親知らずが生えてきたからといって必ずしも抜かなければならない、というわけではありません。 抜歯以外の選択肢も歯科医師と検討してみてもよいかもしれません。
まとめ
口の奥で生えてくる親知らずは、文字どおり自分でも知らないうちに生えてくるものです。中には歯が痛いと思って歯科医院に行くと親知らずが原因と診断されたという人もいるのではないでしょうか。
こうした親知らずは放置していると歯が痛くなるだけでなく、健康面でもさまざまなトラブルを引き起こす原因となります。
歯を抜くのは少し怖い、抜かなくても多少の痛みは問題ない、そのように考えずに口の中で違和感があれば歯科医院に相談しましょう。
また、日頃から歯磨きを習慣にするだけでも歯の違和感に気付きやすくなります。常に歯の状態を気にかけておくことで、歯科医院でも適切な治療を選択できるようになるでしょう。
参考文献
- 下顎智歯(親知らず)の抜歯を受けられる患者さんへ
- 埋伏歯|KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
- 親知らず|東京歯科大学 千葉歯科医療センター
- 親知らず|札幌医科大学 医学部 口腔外科学講座
- 抜歯後疹痛に対する立効散の使用経験
- 口腔外科手術の基本的手技:下顎埋伏智歯抜歯|国立大学法人 長崎大学病院 口腔外科 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔再生外科学分野
- 親知らず(智歯)の抜歯|国際医療福祉大学三田病院
- 親知らずを知っていますか|川崎医科大学 総合医療センター
- 歯はどうして痛くなる?:歯の痛みの原因|日本大学 松戸歯学部 付属病院
- 専門分野のご紹介|岡山大学 顎口腔再建外科学 口腔外科 顎口腔再建外科学部門
- 歯科口腔外科・矯正歯科|愛媛大学医学部附属病院